creative unit DOR

「夫婦漫談 vol.4」 〜OLとフリーランス、料理と写真、違いが生み出す二人の味〜【トークイベント開催レポート】 ゲスト 岩本順平さん、永井友理さん

第4弾のゲストは、岩本順平×永井友理夫妻。夫の岩本順平さんは、カメラマンとしてだけでなく、NPO法人DANCE BOXの広報ディレクター、下町芸術祭の事務局長としても活動。また、2017年には、建築設計を手がける合田昌宏氏とともにcreative unit DORを設立し、活動の幅を広げています。妻の永井友理さんは、通販大手企業である株式会社フェリシモの社員として、自社Webサイトのディレクションを担当。同社で部活から発展した事業「フェリシモ女子DIY部」のメンバーとしても活躍しています。また、プライベートでは旬の野菜を使用した料理を提供する「おうち食堂」の活動も展開し、ケータリングや料理イベントを手がけています。個人事業主と会社員という、対照的なポジションで活躍するお二人に話を聞きました。

ひとつの職業にはとどまらない、2人の仕事ぶりとは

—自己紹介からお願いします。

順平 いろんなことに関わっているので、それぞれの活動を紹介しますと、DANCE BOX(以下、db)というコンテンポラリーダンスのプロデュースを行っている団体、このヨンバンカンニカイの4階に劇場があるんですが、そこでPRディレクターをしています。それから、新長田の六間道商店街でレンタルスペース「r3」を手がけている合田さんと一緒に、2017年に一般社団法人DORを立ち上げました。神戸のクリエイターの方たちと一緒に、神戸のさまざまな案件を請け負っていく「デザインの地産地消」を目指す団体です。あとは個人の写真事務所と長田区南部で2015年から行っている下町芸術祭に関わっています。仕事も生活も長田を拠点にしています。人生グラフは、前回のゲストの東さんがつくっていたものをレギュラー化していこうかと思いつくってみました。こうやってグラフを見ていると、何か新たにしたいことでてくるときって、落ちているときなんですね。

▲:夫、岩本順平さんの人生グラフ

ー具体的にはどういった活動を?

順平 撮っている写真は広告系のものとアートプロジェクトに関わるものがメインです。基本的には人物写真。dbでは、コンテンポラリーダンスというジャンルのプログラムを展開しています。どんな分野もそうですが、アートプロジェクトは経済的に成立することが困難です。そのため、文化庁や文科省、神戸市などの文化芸術の担当セクション、国際共同制作のプロジェクトなどは国際交流基金や各国の大使館と連携しながら仕事をしています。以前発表した作品の中には、半分がプロフェッショナルなダンサー、もう半分は漁師さんなどの地域の人たちが出演するという、地域とのかかわりを持ちながらつくられたものもありました。

▲:dbが企画した地域住民参加型の舞台『花道ジャンクション』(2016年)

下町芸術祭は、2015年から始まった神戸の下町エリアの空き家や空き店舗、路地など下町の魅力溢れる場所を舞台にした芸術祭です。現代アート作品の展示やパフォーマンス、長田の歴史や風土を学ぶトークイベントなども行っています。2017年は、境界の民をテーマに開催しました。というのも、長田区は韓国人やベトナム人などいろんな国の方たちが移住してきたエリアで、それぞれのルーツが、町の中で変化を遂げながら織り交ぜられているおもしろさがあります。そういったことをアート作品やパフォーマンスという視点を通して見ていく、ということをやりました。あとは、昨年、神戸市と共催で「瀬戸内経済文化圏 OPEN SUMMIT」という企画を開催しました。瀬戸内で活躍するクリエイターがゆるやかなつながりをつくり、それぞれが行っている取り組みを共有し、それぞれの地域が持つ資源や魅力を見つめ直して再構築していくプロジェクトです。これからリリースになるのですが、20人くらいのクリエイターを巻き込んで地下鉄海岸線エリアの活性化やプロモーションを行う「シタマチコウベ」というWebサイトのディレクションも手がけています。行政の案件が多いですね。

▲:岩本氏が手がけた、『下町芸術祭2017=境界の民=KOBE-Asia Contemporary Dance Festival #4 新長田のアジア、家族の系譜より』メインビジュアル。

友理 妻の永井友理です。私は移動が多い人生なんです。生まれは京都府舞鶴市の、漁港のある町。実家は裕福とは言えず、生活は華やかではなくて思春期はわりと苦しんで生きてきた感じです。それから富山の大学に進学して、いわゆる大学デビューを果たしまして。この時期が一番楽しかったですね。その後、大阪のWebのベンチャー企業に就職するんですが…これがまた波乱で、私たちが就職するちょっと前にライブドアショックが起きて。入社した会社がライブドアと同じ監査法人を使っていた影響で、株価がどんどん下がって、最終的には百円均一くらいまで暴落したんです。私が在籍していた2年の間に、社長が3回変わったりして。社会の闇をいっぱい見た時期でしたね。

 

▲:妻、永井友理さんの人生グラフ

ーせっかく大学デビューを果たしたのに!

友理 そうなんですよ。でも、その会社がいわゆる希望退職者を募ることになって、たった2年働いただけで退職金がもらえて、転職活動も自由にできるというのはチャンスだと思って。それで、フェリシモに入社しました。フェリシモでは、入社した当時からWeb部門に在籍し、プライベートでは「おうち食堂」という活動もスタートしました。それから、のちに話題を呼んだ「フェリシモ女子DIY部」を立ち上げて、2017年、結婚に至るという感じです。

ーフェリシモではどんな仕事を手がけているんですか?

友理 Webサイトのディレクションを手がけています。デザインだけではなくて、システム開発部とも連携して、運用とデザインのつなぎやサイトの改善、SEO対策に関わっています。あと、フェリシモは取り扱っている商品にあわせていろんな事業部があるんです。なので雑貨、食品、ファッション、レッスンなど多岐にわたる商品すなわち事業部を横串でつないで、いろんな商品に一手に出会える場をWeb上で作るコンテンツ制作を手がけています。

ー「フェリシモ女子DIY部」というのは、会社の中での部活動?猫部は有名ですよね。

友理 数年前に、部活という制度ができたんです。それぞれ事業部に所属はしているけれど、担当領域以外にもきっとしたいことがあるよねという考えのもと、同じ興味関心を持つ人が5人以上集まったら、水曜の午前中に活動をしてもいいという制度。猫部も、もともとは部活だったんですが売上がいいので事業部に成長したんです。その部活の制度を利用して私が仲間と立ち上げたのが、「フェリシモ女子DIY部」。部活のメンバーの男性が、奥さんのリクエストに答えてがんばってDIYしたけれど、奥さんからは「思ってたんと違う」というコメントが返ってきたというエピソードがあって。その話を聞いて、実用的なDIYをするためには女性の感覚や生活目線って欠かせないなと思ったんです。それで、何かを作る時のハードルが下がったらいいなという視点で立ち上げました。

ー女性が自分で作れるようになったらいいね、ということですか?

友理 そうなんです。買おうと思っても、ちょうどいいものがなかったり金額が高かったり。でも、例えばちょっとした隙間に棚が欲しいなと思ったときに、自分でつくれたら便利だし、生活がもっと楽しくなるよね、という発想です。おかげ様で、メディアにもたくさん紹介していただいて、今は、会社公認で活動をしています。Webサイトでの関連商品を紹介、ワークショップの開催、情報発信など、地道に活動しています。他社とのコラボレーションも手がけていて、URのDIY物件とか、駒ヶ林のアグロガーデンさんと商品開発を進めたりしています。

ー個人で活動している「おうち食堂」は、どんなきっかけで始めたんですか?

▲:プライベートで活動中の「おうち食堂」では、野菜の味が引き立つ料理を提供

友理 舞鶴で生まれ育ち、大学時代は富山にいたので、空気や水はいいし、野菜や魚もおいしい、という、食に関してずっと恵まれた環境にいたんです。でも、大阪で暮らし始めたら、外食したらおいしいけど、以前と同じレシピでも、自炊をしたらなんだか味が違う…素材がよくないからかな?と思っていて。神戸に引越してきたら、海もあるし野菜をつくっている農家さんが身近だからか、素材はすごくよくて。でも、その野菜を使って料理をしているという人とあまり出会わなかったんですよ。だから、自分で野菜を調理したらこんなにおいしいんだよ、ということを伝えたくてはじめたんです。主にケータリングやイベントを手がけていて、日本酒とあう料理を出したり、雑貨店が出しているレシピ本にレシピを載せていただいたり、イベントでケータリングをしたり。

ーそういう活動は、どうやって広がっていったんですか?

友理 あまり意識的に広げるようなことはしてこなかったんですが、ご紹介いただいた方のつながりで、交友関係が広がっていきました。

丸五市場はパワースポット!?仕事のきっかけと結婚をつかんだ場所

▲:新長田駅から南へ徒歩8分の場所にある、丸五市場。2008年から開催している「丸五アジア横丁ナイト屋台」の名はご存知の方も多いのでは。

ー順平さんの人生グラフで、どんと落ちているのはどういうタイミングだったんですか?

順平 独立したのが二十歳くらいの頃で、その後すぐに東日本大震災が起きて、現地に行ってダメージを受けた時期がありました。その後、もう一度落ちているのは独立して1年くらいはうまくいっていたんですが、食べていけない状況に陥ってしまって。半分はどこかに雇ってもらうようなスタイルで仕事をしたいと思って、dbの求人に応募したんです。それから、いろんなことがうまく回り出しましたね。

ーdbとは、もともとお仕事をしていたんですか?

順平 いえ、丸五市場でdbの方と出会ったのがきっかけです。写真が撮れるし、ある程度デザインもできるし、というところを買ってもらえて。初めは右も左もわからなくて、手探り状態でした。ちなみに丸五市場というのは、中華料理とかミャンマー料理のお店があって、カオス状態になっている市場。芸術祭のレセプションや打ち上げで使わせてもらったりと、よく出入りをしているんですが、思えば妻と出会ったのも丸五市場で。仕事のきっかけをつかみ、結婚をつかみ、僕のパワースポットみたいな場所かもしれませんね。

ー下町芸術祭はどんなきっかけではじまったんですか?

2014年に、新長田で活動しているいろんな人が集まって中央区で開催している芸術祭に負けないことを、長田でもやろう!ということになりました。ちょうど、2015年は震災から20年の節目。このタイミングで、継続性のある、そして町の魅力を捉えなおすことをしようということになりました。2015年から毎年開催しているんですが、初回は約7万人の方が来場してくれました。ん?人生グラフの縮尺がちょっとおかしいですね。DORを設立してからは仕事の幅が広がっていて、ありがたいです。

ーここまで聞いても、やはり岩本さんの職業が説明しづらい。

順平 僕もよく分からないんです(笑)。最近は、僕がクライアントとの調整を行って、制作の領域であるデザイン、編集、Web、場合によっては写真も外注してますね。あとは、何か起こったときに叱られに行く役というか。

ーもともと狙っていたポジションなんですか?

順平 いえいえ。むしろ、写真を撮っている方が一人で完結するし早く終わりますよね。でも、できるだけ多くのクリエイターと一緒に仕事がしたいんです。神戸のクリエイターが協業するためのハブのような存在になれたらいいなと思っているので。

結婚式は、町の人たちとともに手づくりで

ー結婚式も長田で開催したと聞きましたが、どちらで開催したんですか?

友理 ふたば学舎をお借りして、披露パーティを行ないました。夫と繋がりのある長田の皆さんに会場設営をしてもらい、私の知り合いの料理屋さんや酒蔵さんにおいしいものを出していただいて。パフォーマンスも、dbの関係者にコンテンポラリーダンスを披露していただいたり、私の仲良しのDJさんにBGMを担当していただいたり。当日のスタッフも、2人が仲よくしている方たち総出で、お互いの今までの繋がりが融合してできあがったパーティーになりました。ちなみに、結婚式もこの近くの「駒林神社」でおこなったのですが、この神社で結婚式をすること自体が20年ぶりということで、こちらもいろんな方にご協力いただいて、素敵な式を挙げることができました。

ゆるやかな、仕事を通した2人のつながり

ー2人で仕事の話をしたり、一緒に仕事をすることはあるんですか?

順平 デザインとか写真とか、どっちがいい?と意見を聞くことはありますね。でも、意見が合わないこともあるから、なんとなく自分の中で見極めていますけど。

友理 基本的には、彼がいいと思うことをやればいいと思っているので、参考程度に意見を言うことはあります。なんとなく、彼の意思を汲み取りながら話をしているところはあるかも。

順平 仕事では、dbのパーティーでケータリングをお願いしたり、下町芸術祭のプログラムをお願いしたりすることはあるかな。

友理 あとは、フェリシモからWeb制作の依頼をしたり、この会場の空間づくりはDIY部でワークショップをして一緒につくりましたね。

▲:「夫婦漫談」の会場、DORが設計を手掛けた「ヨンバンカンニカイ」の一部はフェリシモ女子DIY部と共作。

観客 2人の目標を教えてください。

順平 仕事の上では、僕たちこれまで、ディレクション費をうまく稼げていなかったので、今後の課題ですね。設計とか撮影費とか実働した分だけで稼いでいるので。制作の実働部隊として動けないことも増えてきたので、企画に対してのフィーをどう自分の中で位置付けて、きちんといただけるようにするのかを考えていかないといけないなと思っています。

友理 ディレクターのポジションの人がちゃんと稼げるようになれば、他のクリエイターたちにとってもフィーの底上げにつながります。私の目標は、夫はきっと、これからもおもしろいことを仕掛けてくれると思うので、そのいい支えになれたらいいなと思いますね。

順平 僕は…今は兵庫に住んでいるんですが、今年こそ新長田に引越ししたいですね。事務所兼自宅を作っていきたいなぁと思っています。

 

(レポートはここまで)

 

これまでご紹介した皆さんと違って、会社員と個人事業主というちょっと立場の異なるお二人。お話を聞いていると、立場も行動も対照的。だからこそ、お互いに客観的な視点をもって、ゆるやかな仕事のつながりをつくれるのかなと感じました。ちなみに友理さんのつくるお料理は、ご本人の思惑通り野菜の新たな味が発見できるきっかけになるので、機会があればぜひ食してほしい!

 

(取材・文 山森彩